ナガラミ事件
ナガラミという小さい巻貝を買ってきた千代さん。
「お父さんにナガラミ食べさせてよ~」
と、ワタシに言い残し、夕方から詩吟の稽古に出かけた千代さん。
そして、言いつけどおり帰宅した父にそれを伝え、父はナガラミを晩酌の肴に。
小さい貝なので、いちいち楊枝を刺して引っ張り出して食べなくてはならない。
ちなみにワタシも勧められたが、消化が悪そうなのでご遠慮した。
「なかなか出てこないな~」
と、ブツクサ言いながらも食べ続ける父。
ワタシは、それを小耳に挟みつつ、夕食をとっていた。
面倒くさがりの父の小言が次第に増えてくる。
「もう、このナガラミ、食べにくいよ。」
「お母さん、なんでこんなの買ってきたんだ。」
イヤならやめればいいのに、父の楊枝は止まらない。
あんまりうるさいので、果物用の細いフォークを渡して黙らせようとするワタシ。
そして、事件発覚。
「これ、生きてるぞ」
父の一言に、固まるワタシ。
「え?」
「ほら、突っつくと引っ込むだろ」
「まさか~。冷蔵庫に入ってたんだよ。」
ちょっと突付いてみるワタシ。ウニョッと引っ込む貝。うわ~生きてる。
「ナガラミって茹でて食べるんだろ」
どうりで出てこなかったんだ。と納得している父。
ちょっと待て。生で食べて大丈夫なのか。
既に結構な数を平らげ、残りはあとわずか。
「初めに気が付きなさいよ!殆ど食べちゃってるじゃん。」
生で出す千代さんもどうかと思うが、気が付かない父も父だ。
貝なんかに当ったら、ひどいことになる。
「生きてるなら新鮮だから大丈夫だろ。あ、酒で消毒しなくっちゃ。」
と、コレ幸いと焼酎を飲む父。さすがスキーで通学していた田舎育ち。
やがて帰宅した千代さん。
「え~、茹でたのが売ってたんだと思ってたから茹でる気なんてさらさらなかったもん」
やっぱり、生だったんですね。
「やだ、生きてるなんて~、気持ち悪い。お父さん、捨てて捨てて~」
と千代さん。「ごめんなさい」はありません。
ちなみに父は、若い頃、千代さんに殺されかかったことがあるそうです。
父が寝ているときに、ヤカンを火にかけたまま外出し、父が目覚めると火は消え、ガスがシューシューしていたとのこと。
「お母さんと暮らすのは命懸けだ。」
ガスに比べれば、今回のナガラミは大したことじゃないようです。
今朝、軽く下痢した程度でした。
「ナガラミの話はやめて~」
と、千代さん。昨夜そんなことがあったもので、夢にナガラミが出てきたらしいです。
そもそもナガラミも、「お父さんが前に喜んだから買ってきた」そうなので、そういう意味ではカワイイ妻の千代さん。
「ねーちゃん、ブログに書かないで~」
書いちゃいました。