月食観察

 昨夜は月食でしたね。

店の玄関先から見上げるとちょうど良いところに月が見えたので、千代さんと二人で観察しました。


店の前の歩道は駅からお帰りの方々が通ります。

月食観察中も、お勤め帰りの方が徒歩や自転車で通り過ぎました。


月食を喜んで見ていた千代さんですが、そんな方々に今まさに月食していることを伝えたくて、知らない人に声をかけ始めました。


「月食ですよ~」と自転車のお兄さんに声を掛けたり、「お月様、月食ですって」と会社員風のおじさまにも声を掛けたりしていました。(なぜか男性の方ばかり通り過ぎます。)


「びっくりさせちゃうから、やめなさいよ」

目の前の天体ショーを教えてあげたくなる気持ちもわからないではありませんが、知らない人にいきなり声を掛けられたらご迷惑かもしれないので、一応止めてみるワタシ。


冷たい反応が返ってくるかと思いきや、案外皆さん好意的な反応をしてくださいました。

自転車のお兄さんも走りながら、「はい、そうですね~」と答えてくれましたし、

月食だと知らなかったおじさまは、千代さんとしばしお話されていきました。


ですが、やはり急に声を掛けるのは気が咎めるワタシ。

「ここで空を見上げながら、月食の話をしてたら自然に気が付くかも」

と提案しました。人が通るたび、声高に月食話をする怪しい親子となった二人。


そんなこんなしながら月食を満喫し、店の中に千代さんが戻った直後のこと。

お兄さんが一人歩いてきました。手にはスマホです。

相方の千代さんは室内に行っちゃいました。

知らなかったら是非見てもらいたい、と思ってしまったワタシ。


「月食、見ました~?」とつい声を掛けてしまいました。


普段なら絶対にしない行為です。月食のおかげでテンションがいつもと違ったのでしょうか。

・・・千代さんに声掛けを注意したくせに自分がやっちゃった。

千代さんの血がワタシにも流れているのを痛感したのでした。


お兄さんは月食をご存知だったようですが、笑顔で「よく見えますね」と答えてくださいました。