いつものこと

 顔写真を提出しなければならない事が発生し、写真屋さんに行くのも手間なので、千代さんに家で撮ってもらった時のこと。


普通ならチョコチョコっと撮ってもらえば済むことなのですが、なにせカメラマンは、千代さんです。

そう簡単にいく筈も無く・・・頼んだこちらも覚悟の上ですが。


まずは、フィルムカメラで撮って貰いました。

ファインダーを覗く千代さん。

「この点線の中に入ってればいいんでしょ?」


そうです。


「点線の真ん中にねーちゃんの鼻?」


と、なぜか鼻の位置にこだわる千代さん。


「あれ?鼻だと、なんか変だな。入りきらないよ」


一体どんな構図を狙ってるんですか。

鼻はどうでも、上半身が入っていればいいの。

これでは、いつになっても撮れそうもないので、自分が移動して撮影位置を決め、千代さんの立ち位置を指定しました。


「あー、入ってるね。じゃあここでいいんだ」


もう、そこを動かないでお願いします。


「あれ、どこ押すんだっけ?」


え~、ここまできてそれを聞くんだ。

そんなこんなで、やっと撮ってくれました。

しかし、フィルムカメラでは現像するまで結果がわからないので、保険に携帯のカメラでも撮ってもらうことにしました。

(これならその場で結果がわかる)


「今度は、このボタンだからね」

と先手を打ってスタンバイすると、


「このカメラ、変だよ。ぼやけてるよ~」

と千代さん。なぜだ。ピントは自動で合うはずです。


カメラを構える千代さんを見ると、携帯の画面に目を付けています。さっきのファインダーを覗いている感覚なんですね。


「違う違う、それはデジカメだから、もっと目から離して」

と説明すると、

「あ。ぼやけてないね。」

カメラがぼやけていたのではなく、千代さんの目が近すぎてぼやけていた訳で・・・

で、それから再び立ち位置の指定をして後はボタンを押すだけ。

さあ、押してくれ千代さん。


「どのボタンだっけ?」


――想定内の言葉が返ってきました。

この長文で、苦心の作だということがお分かり頂けるかと思います。

撮ってもらった自分の顔は、明らかに不安の影を落としていました。